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環境ビジネス情報

環境ビジネスで働く人に聞く!

社会のニーズに応えられる
広い視野を持った人材を育てたい

東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻教授(農学博士)
宮下 直 教授


「環境ビジネスで働く人にきく!」今回は東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻教授(農学博士)、宮下 直 教授にお話を伺いました。

先生のご経歴についてお聞かせください。

生物多様性の保全や利用に関する研究が主流に 東京大学の理科2類を出まして、その後農学部に進学しました。今は森林科学と言いますが、昔は林学という学科に入って、動物の生態学を続けてきました。昔は生態学と言うと、害虫など害になる動物とか食べる魚の資源の管理が多かったんですけど、今は大分変りまして、1990年代くらいから保全生物学という絶滅危惧種とか希少種の保全といったことを中心とした学問が発展しました。私は長野県の飯田の出身で、もともとチョウとかトンボとか鳥とか生き物が好きだったものですから、昔と違って生物の多様性の保全や利用に関する研究が主流になってきているので、自分なりに活き活きやっていると思います。
いま所属している生圏システム学という専攻は新しくできたものです。農学というのは皆さんご存知の通り、農業や林業や水産業というのがベースですが、昨今の環境問題は個々のフィールドだけで物事の解決が難しくなってきています。生物の保全はもちろん、増えすぎた野生動物、シカとかイノシシの管理もそうですね。もちろん人間の生活環境と関係してくる。それで、生圏システムという新しい専攻が20年くらい前にできたんです。それは古い意味での農学らしくはないですけど、場を統合するようなフィールド科学というものが新しくできて、そこに私は移ったわけです。

先生は学生時代から大学などのアカデミックなキャリア、研究者を希望されていたんですか?

一時は高校の先生になることも考えて・・・ 基本的には大学にこだわったわけではないです。ただ、当時は国の林業試験場(現在の森林総合研究所)というものがありまして、もともと森林系だったので、そのあたりを就職先にと漠然と考えていましたが、研究を進めていくうちに、大学院に進学して学位くらい取りたいと思うようになりました。
なぜ一般就職以外を考えていたかというと、父親が小学校の先生をやっていて、そういう環境に育ったということも影響していると思っています。父は田舎の平教員で反骨精神の強い人だったので、官僚的な校長と意見が合わずに喧嘩したりして、出世とか全く興味なく、子供と一緒に色々と教えるという教員の本分のようなものを持っていました。そう言うものが私の中にもあって、一時は高校の先生になることも考えていました。今は大学院に進む人は教職を取らなくなっていますけど、僕らの頃はもちろん、今の40代半ばくらいまでの大学院生は教職の資格を大抵とっていたと思います。これは滑り止めという意識もあったと思いますが、私は結構本気で考えていました。

自然と共生する社会を築くことが社会の目標に 当時一般企業には生態学のニーズは殆ど無かったです。なので企業への就職は考えていませんでした。そういう状況もあり大学院に進学しました。この世界は実力だけでなく、やっぱりタイミングとか運とかが結構関係していて、私も運よく大学に採用されて今ここにいる、と言う感じですね。
生き物好きが高じて研究者になったわけですが、今は立場上、フィールドで色々科学するだけでなくて、生物多様性条約を始めとして、国内外の流れが自然と共生する社会を築くことが社会の目標にもなっているので、環境省、農水省、国交省等を含めた行政の政策にも役立つ研究にも関わっています。教育者としては、基礎科学がしっかり出来て、なおかつ社会のニーズに答えられる広い視野を持った人材を育てたいと考えています。研究者はもちろん、行政や企業、NGOなどでもいい活動やっているところはいっぱいあります。海外だとNGOは学位がないとなかなか信用されないという話も聞きます。どのような組織であっても、しっかり自分の頭で考えて、戦略的にものを進められる人材をしっかり育てて行いきたいと考えています。

先生は、日本蜘蛛学会の会長でもあり、著書の中でもクモについて多く取り上げていらっしゃいますが、昔からクモが好きだったりご専門でいらしたのでしょうか?

ほかの生き物にはない(網を張るという)ユニークな性質もあるので研究のキャリアとしてクモを始めた 昔から好きだったのはチョウです。だけど、当時はそういう趣味的なものは研究として認められない、クモもある意味趣味的ですけど、全部が他の虫を食べる捕食者、つまり肉食者です。だから害虫の天敵として、農地や林地でその役割についての研究が重要視されていました。
今は農薬の使いすぎなどの問題からさらに注目されています。生態系にはクモだけじゃなくて寄生バチなどいろんな天敵がいて、健全な食物連鎖の中に組み込まれている。それが農薬を使いすぎたりすると、害虫は一時的に減るかもしれないけど、天敵も減るので、その副作用で害虫がかえって増えたりすることもある。その反省で天敵の力を利用した経営や管理が、その頃から徐々に言われていたんですね。それに加えて、クモ自身の面白さ、つまり他の生き物にはない、網を張るというユニークな性質もあるので、研究のキャリアとしてクモを始めたわけです。

基礎と実学は決して乖離したものではない裏と表 その後、別の専攻に移ったり、あるいは時代の流れもあったりで、色々な研究をやってきました。例えばため池の生態系の研究や、シカ、イノシシの研究も続けています。
ため池はブラックバスやブルーギルという外来魚をいかに減らすかということで、20年くらい前までは、それらの駆除だけが叫ばれていたのですが、僕らが研究を進めていくうちに、どうもブラックバスを駆除すると水草が一気に無くなるという変なことが起きて、何だろう?と調べてみると、今までブラックバスに抑えられていた別の外来種のアメリカザリガニが大発生して、新たなマイナス面が出てくることがわかった。つまり、外来種同士が食う食われるの関係にあると、一種だけ取り除いても別の種がはびこる、いわばモグラ叩きのような状況が起きることがわかったのです。こうした事例は日本では僕らが初めて実証し、海外でも当時は目新しい問題として取り上げられ始めたばかりでした。やはり自然の仕組みは複雑で、外来生物問題と言っても、それにどう対処したら良いかというのは意外と単純じゃない、といったことを社会に提示できたと思います。
その他に、千葉県のシカの研究にも取り組んできたのですが、途中からイノシシが出てきまして、まず数をどう推定したらいいか、その上でどう管理したら効率的か、という研究も行ってきました。うちの研究室では、2005年頃から生物の分布や個体数を予測するという研究を始めています。日本の流れもそうなりつつある、つまり仕組みを明らかにするだけでは問題解決にならない、将来どうなるか、あるいはどうしたら将来がどう変わるか、というシミュレーションを空間明示型でやるようになりました。野生動物の管理も希少生物の保全も、今はそうしたことが求められています。
最初は特定の幾つかの生き物についての研究から始まるのでが、研究して行くうちに色々な面白いこと、つまり裏を返せば役に立つということに気づいていく。今まであまり評価されていなかった部分に実は本当のブレークスルーがある。そして基礎と実学は決して乖離したものではなく、本当に裏と表じゃないかなって、僕は思っています。最近のノーベル賞の例もそうですね。


宮下 直(みやした ただし)
東京大学大学院農学生命科学研究科生圏システム学専攻教授(農学博士)。
1961年、長野県飯田市に生まれ、伊那谷の豊かな自然の中で育つ。生き物好きの父や飯田高校時代の生物教師の影響で、トンボやチョウなどの昆虫の生態に詳しくなった。
1983年に東京大学大学院農学系研究科修士課程林学専攻を修了。92年「ジョロウグモの生活史における生態的制約と適応」により、博士(農学)を取得。以来、クモ研究者たちとの交流も深まり、2012年から日本蜘蛛学会を率いる。