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特集コラム
~サステナビリティとキャリア~

サーキュラーエコノミーの視点から
プラスチック業界を考えてみる

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循環型経済を目指したサーキュラーエコノミーの概念が実社会に広がる中、プラスチックの海洋流出による環境影響など、廃棄物の不適切な処理を防ぎ資源を最大限に活用するリサイクルが社会に担う役割は、近年、大きくなってきています。

私自身も、建設系廃棄物のリサイクルを中心に研究してきた経緯から、今現在、若輩者ではありますがお声がけ頂き樹脂窓リサイクル検討委員会の主査を務めています。(※1)樹脂窓は、アルミサッシの窓と比較して断熱性が高いため、樹脂窓を用いた住宅は、冷房や暖房などのエネルギー消費量が少なくなることが広く知られ、今後、普及することが期待されている建材の一つです。そんな有用な建材ではありますが、現在、解体現場から排出される使用済みの樹脂窓に関して、広くリサイクルができていないことが、唯一憂慮すべき点であると考えています。樹脂窓のリサイクルといってもピンとこない方も多いかと思うので、少しだけ、樹脂窓を解説しますと樹脂窓のフレーム部分は汎用プラスチックの一つである塩化ビニル樹脂で出来ています。(図1)

図1 塩化ビニル樹脂の窓

樹脂窓のリサイクルは、塩化ビニル樹脂製のフレーム部分をリサイクルするということになります。つまり、樹脂窓リサイクル検討委員会は、プラスチック(塩化ビニル樹脂)のリサイクルの仕組みをつくるための検討委員会であると考えてください。この検討委員会の活動の中で、塩化ビニル樹脂のリサイクルの在り方について日頃、思案しています。

本検討委員会とは関係がないですが、日頃、プラスチックのリサイクルに思いを馳せている個人の考察として、サーキュラーエコノミーの社会実装が実現したときのプラスチック業界について考えてみたいと思います。

リサイクルされた再生原料の品質

「リサイクルには、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルがあります。一般的に製品から製品へのリサイクルは、マテリアルリサイクルになります。マテリアルリサイクルは、手選別や機械選別により異物が取り除かれ、純度の高いプラスチックを取り出す方法となりますが、やはり微小な異物などは混入してしまいます。そのため、品質は石油から作られたプラスチックに劣ってしまうといえます。リサイクルされた再生プラスチックは世界で広く用いられていますが、国内で積極的に用いられないのは、この点が大きいと私自身考えています。加えて、リサイクルを行っている産業廃棄物処理業者は、廃棄物の回収や異物を取り除く選別のノウハウは非常に高いものの、真に原料としての品質を十分に理解し管理できているかというと、やはり原料メーカーには劣ってしまうという点も、再生原料の国内需要が大きくない要因であると考えています。

リサイクルが進むことで何が起こるのか

ここで、プラスチックのリサイクルが進むと何が起こるのかを考えてみます。リサイクルをするということは、投入資源を削減することに繋がります。そのため、リサイクルが進めば進むほどプラスチック原料が売れなくなってしまう。そして、極端な話をすれば、サーキュラーエコノミーの概念が社会に根付き、再生原料のみで製品がつくられるようになれば、天然資源から原料を製造する原料メーカーはお役御免になってしまう社会が来ることを示唆しています。

原料メーカーの役割とは何か。それは、原料を製造することに他なりませんが、一番大きな役割は原料の品質を担保していることであると私自身考えています。これは、現在のリサイクルの主役である産業廃棄物処理事業者には、難しいことであるように感じています。

以上のことを考えると、原料メーカーと産業廃棄物処理業者の強みと弱みは補完関係にあり、完全に廃棄されたプラスチックを水平的にリサイクルできるようになった社会において、原料メーカーの業態は、現在の産業廃棄物処理事業者と原料メーカーの役割を統合したものになるのではないのでしょうか。最近、その一端を示す事例が出てきています。具体的には、海外の原料メーカーであるBASF社ではChemCyclingプロジェクトを推進し、廃棄物由来のプラスチック原料を生産・販売していいます。(※2)また、国内においても三菱ケミカルと建設系廃棄物の産業廃棄物処理業者であるリファインバース社が資本提携した事例などがあります。(※3)

これらの事例は、将来の社会変革を見据え、いち早く業態を発展的に進化させた事例であるといえるのではないでしょうか。

最後に

日本国内においてセメント業界は、早くから大量の廃棄物を受け入れセメント原料として廃材を活用していますが、私の知る限り、プラスチック業界においては原料メーカーが廃棄物由来の再生原料から原料生産を行い、販売している事例は、非常に少ないと考えています。プラスチック業界が真の循環型社会を目指すのであれば、上記事例のように原料メーカーと産業廃棄物処理業者の連携が必要になる時代が到来すると考えています。真の循環型社会形成のために、今後、日本国内でも原料メーカーと廃棄物業者の協業の事例が多くみられることを期待したいと思います。

記事掲載日:2020年9月17日

著者プロフィール:
磯部 孝行
(いそべ たかゆき)

武蔵野大学 工学部 環境システム学科 講師
東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(環境学)。
2010年愛知県建設部入庁、建築物の省エネルギー法などを担当。
2019年4月より講師(現職)。工務店が取り組むSDGsの事例を調査・研究。その他、建築分野のライフサイクルアセスメント(LCA)、建設資材のリサイクルが専門。