みなさん、こんにちは。
コロナ禍と呼ばれる状況はまだまだ続きそうですが、「GoToトラベル」など規制や制限の緩和がなされはじめましたが、みなさま、この状況はいかがでしょうか?
未だ先行きが不透明ですよね。いわゆる「先が読めない」という状況です。この中でさらに不安を募らせている方も多いかもしれません。
ただ、先が読めないという状況では、私たちは不安を募らせなければならないのでしょうか?他の対処方法はないのでしょうか?ここでは心理科学的に考えてみましょう。
リスクに敏感な日本人
さて、突然ですが、あなたは「先が読めない」という状況を怖いと感じますか?先が読めないということは「何が起こるかわからない」ということです。保証された未来が霞んでいる状況です。人間は未知の何かを怖がるように作られているので、怖がる方が少なくないことでしょう。
特に行動遺伝学では日本人の約67%はリスクに敏感で不安になりやすい遺伝子(5-httplr遺伝子SS型)の保有者だと言われています(※1)。「先が読めない」という状況はどんなリスクがあるかわからないので、考え始めたら無限にリスクを想像できます。「何だか怖い…」と感じる方が多いことでしょう。
日本では希少な楽観遺伝子の保持者
しかし、世の中には違う感受性を持つ人もいます。日本人では3%程度とする研究が多いようですが、リスクに対して楽観的で何事もポジティブに捉える遺伝子(5-httplr遺伝子LL型)もあるのです。
この遺伝子の保有者とされる方の感じ方は、多くの日本人とは違います。「先が読めない」「何が起こるかわからない」という状況に全く不安を感じないわけではありませんが、違う感じ方も混在するようです。それは、「何が起こるんだろう!ワクワクするね!!」という感じ方です。
このような感じ方が混在する人は日本ではかなりの少数派です。そして、リスクに敏感な遺伝子は同調圧力を生む遺伝子でもあります。同調する仲間がいると、不安が軽くなって気が楽になるからです。仮に「ワクワクするね!」と感じた方が居たとしても、日本の社会ではそれを口に出しにくいことでしょう。同調圧力、すなわち口にした途端に周りに嫌な顔をされて落ち込んでしまうからです。欧米であれば落ち込みにくいはずの楽観遺伝子の保有者が落ち込みやすいのも日本の社会の特徴と言われています。
肯定的不確実性とはなにか?
しかし、先行きが見えない現状では、楽観遺伝子の保有者の感性に私たちは学ぶ必要があるかもしれません。なぜなら、より良い生き方(キャリア)を支援するための心理学では、先行きが見えないときには「肯定的不確実性(Positive Uncertainty)」が必要だと言われているからです(※2)。
肯定的不確実性とはアメリカのキャリア心理学者H. B. Gelattが提案する、より良い意思決定のためのキーワードです。これは変化の激しい現代社会では先行きがよくわからない、すなわち不確実であることを前提に、できる限りの情報収集を行って、より良い将来を予測して創造することが重要です。なぜなら、より良い将来を予測していれば、そのチャンスが来たときに見逃さないからです。
リスクを見るか、チャンスを見るか
仮に先行きが見えないときに「なんか怖いね」とひたすら怯えていたとしたら、これは心のセンサーがリスクにしか向いていないことになります。本当にリスクしかない状況なら、この姿勢は正解です。リスクを捉えることは、リスクを避ける第1歩だからです。
「先行きが見えない」状況はリスクもあり得ますが、同じくらいチャンスもあり得るはずです。ただ、心の羅針盤がリスクを捉えるだけになっていたら、チャンスはことごとく見逃してしまうことでしょう。しかも、チャンスがあったという事実にすら気づかないままにこうなってしまうのです。
意志の力で遺伝子の影響を乗り越えよう!
私たち日本人は、遺伝傾向の関係でついついリスクに目を向けがちです。さらに同調圧力の影響で、みんなでリスクに注目しようとしがちです。でも、本当にそれでいいのでしょうか?
今のコロナ禍と呼ばれる状況は先行きを不透明にしています。しかし、逆に社会が進む方向は情報を集めれば読みやすくもあります。私は今こそ、肯定的不確実性が必要なタイミングだと考えています。
私たちの中のリスクに敏感な遺伝子はしばしお休みさせて、情報を集めてポジティブな可能性を見出そうではありませんか。そして、そのチャンスを見逃さずに活かそうではありませんか。遺伝子や脳の働きは私たちに大きな影響を与えますが、私たちの意志の力は心がけ次第でその影響を乗り越えられるのです。
今、あなたの目の前には大きなチャンスが待っています。さあ、肯定的不確実性で、そのチャンスを手にして下さい。
著者プロフィール:
杉山崇
(キャリア心理科学者)
神奈川大学教授。
教育支援センター副所長、心理相談センター所長などを歴任。精神科、教育委員会、公的雇用支援機関などの心理職、厚生労働省事業の委員なども務め、企業人事施策のコンサルティングも。ニュースや学術バラエティなどTV出演も多数でベストセラー著作もある。学習院大大学院修了。