新型コロナ感染症は我が国に雇用状況の著しい悪化、不安定化をもたらしています。今年9月の有効求人倍率は1.03倍となり、9か月連続で前の月より低くなったと厚生労働省から発表がありました(※1)。また、2020年に入り人材採用動向に大きな変化が生じ、未経験・ポテンシャル層の求人が激減、即戦力として活躍できる人材の求人だけが残っているとの記事がありました(※2)。
新型コロナ感染症は高齢者の健康への深刻な脅威となっているだけでなく、若い世代への雇用不安という別の重大な脅威ももたらしています。
このような状況で、現在仕事を探している方々に少しでも参考になれば、と私の最近の経験から推薦状についてお話しさせていただきます。
推薦状は、学生の就職活動に際して大学の指導教授から、転職に際して現職の上司からいただける場合などがあります。まず、以下の推薦状をご覧ください(個人の特定を避けるため省略、伏せ字があります)。
関係各位
弊社で部下でありました****さんを紹介させていただきます。彼から推薦状を書いて欲しいと頼まれ、快諾しました。私は、本当は彼をグループに残したかったのですが、弊社の状況悪化により契約終了せざるを得なくなった状況です。
以下の通り、ご推薦させていただきます。間違いなくお勧めできる人材です。
- 1.担当業務など
- (省 略)
- 2.経験およびスキル
- (一部省略)
- ・文書作成能力が高い
- ・母国語(フランス語)以外英語に堪能、日本語も一定程度こなせる
- 3.能力評価
- ・業務の効率が高く、レスポンスがとてもよい
- ・新しい業務でもすぐに関係情報を集め、ポイントを理解し対応できる
- ・業務のプライオリティ、緊急性をよく理解し、自らの仕事に反映する
- ・課題に対し現実的な解決策を考えてくれる
- 4.人物評価
- ・人当たりがよく、誰とでも信頼関係を築ける。特に気むずかしい顧客に対する困難な説得に成功し、海外の関係会社と良好な関係を築ける
- ・誠実に業務に取り組む
- ・信頼でき、人に優しい
- ・日本人の感覚を理解している
- 5.短所
- ・ほとんど思い当たることはありませんが、強いて言えば長い休暇
以上です。
ご質問等ございましたら、ご遠慮なくお問い合わせいただければ幸いです。(署 名)
この推薦状は、私が前職でインターン生として受け入れ指導したフランス人大学生が、卒業後勤務していた日本の企業を退職する際、上司からいただいたものです。皆さんはご自身が人を採用する立場にいると考えてこの推薦状をご覧ください。ここで私が特に印象的と感じたのは以下の三点です。
- (1) 文書作成能力が高い
- (2) 新しい業務でもすぐに関係情報を集め、ポイントを理解し対応できる
-
業務内容とその重要性は時間と共に変化することが多く、適切な情報の収集などを通してその変化に自主的に対応できるということは、現在の業務の中身や課題などを常に理解できていることを意味し、大変重要です。
- (3) 人当たりがよく、誰とでも信頼関係を築ける
自分の業務などを上司、関係者に、会社の業務などを顧客に理解いただけるよう簡潔、明瞭かつ筋の通った文書とすることは、多くの業務の基本だと思います。しかし、そのような文書作成には相当の訓練とセンスが必要なのはご承知の通りです。
推薦状には「信頼でき、人に優しい」との評価もあります。すなわち、この人は同僚などと丁寧なコミュニケーションをとりつつ仕事を進め、信頼される人だと評価されているということです。これは、組織で円滑に業務を進めるとき不可欠でしょう。
- この推薦状は、現在仕事を探している方や推薦状を書く立場の方のための示唆に富んでいると思います。すなわち、この推薦状は仕事を探している方に以下の問いかけをしています。
- 次いで、推薦状を書く立場の方には以下の問いかけをしていると考えます。
・推薦状を依頼できるような先生や上司はいますか?
・いる場合、あなたを適切に評価いただけるようその先生や上司とコミュニケーションはとれていますか?
・いない場合、この推薦状はあなたの今後の仕事の進め方などを考える参考となりませんか?
・あなたは、いざというとき自信を持って推薦状に書けるよう部下を育てていますか?
この推薦状を書いた方は、部下の仕事ぶり、作成文書、同僚とのつきあい、顧客への対応などを常に注意し、誠実に業務に取り組む姿勢を自ら示すなどして人を育てようとされていると感じます。
私に多くの示唆と感動を与えてくれたこの推薦状が現在仕事を探している方、そして推薦状を書く立場にある方に少しでも参考になるようなら幸いです。
最後に、彼は新たな勤め先を見つけ、現在元気に働いていることをご報告します。
著者プロフィール:
山本 憲夫
(やまもと かずお)
1975年岡山大学大学院工学研究科修了、運輸省電子航法研究所入所。航空用電子機器などを研究。仏ニース大学とミリ波レーダに関する国際共同研究リーダー。東京海洋大学で海上航行の研究と教育担当。元電子航法研究所理事長。現在は大手シンクタンクで鉄道技術の国際展開支援のための調査、研究を担当している。