国際協力としての環境事業
我が国の環境事業の市場規模は105兆4,495億円(2017年)に上り(※1) 、地球規模で影響しあう温暖化対策は「REDD+制度」(※2) や二酸化炭素の「排出量取引」(※3) などにより国を跨いで実施されます。
例えば東南アジアのカンボジアの「REDD+制度」では、環境影響評価、湖の環境保全基盤の構築、環境管理分野の研修などが実施されています 。(※4)
私が所属していたODAの会社では、2013年に森林警備隊の施設を建設するプロジェクトを受注し、それに付随する案件として設置するPC、モーターボートや4WD、オートバイ、双眼鏡やGPS、無線機などの機材供与案件が実施されました。
途上国の森を守る日本
供与機材のモーターボートは本来、軽量プラスチックが配置される予定でしたが、代わって木製の船が寄贈されました。現地の事情に疎い誰かが「環境だから」と主張し、誰もそれを止められなかったようです。
伝統的な木製の船は小型で主に手漕ぎで魚釣りに用いられるものであるのに対し、当初予定された長さに作られた木船は大きくて重く、エンジンもそれに相応して高性能な製品に変えられました。モーター装載の木船に慣れている者は誰もおらず、木船は短期間で陸揚げされ、水漏れが始まり、遂には放置されました。
機材配置を確認する担当の若い社員は木船に試乗する際に渡し板から川に落ち、もうイヤだと言い出し、会社は調査が継続できず困っていました。
別の分野を専門とする私が呼ばれたのは、過去に別案件でカンボジア全土を2度回った経験があったからです。過去のプロジェクトで知り合った女性の経営するホテルを宿舎に、知人の日本語教師に現地助手として学生2名を紹介してもらい、英語がわかるはずの運転手の4人で動く予定だったので、機材を確認するだけの「おいしい仕事」だと思いました。
国際協力の現場から
しかし過去の調査は大学と企業が相手でした。それら安全地域での調査と違い、森林警備隊の建物はジャングルの中でした。通訳や道案内のつもりで助手2名を雇いましたが、日程上、3人で分担しなければ期間内に調査を完了できないことがわかりました。一人はベトナム寄りの山岳地域を、一人はタイ寄りのジャングルを、外国人の私は比較的開けた海沿いの地域を担当しました。
川の中で岩に乗り上げたランドクルーザーがギアケーブルの破損で山奥を超低速で進んだり、普段は森の中でハンモックを吊るして眠るレンジャーに宿を紹介してもらったらドブネズミが部屋中を走り回る部屋だったり。海辺の調査の際に魚を買って、次の山中の調査地にお土産に持っていたら、房から1本のバナナを大切そうに選んで持たせてくれたといった楽しい思い出もありますが、森林専門家が教えてくれた、捕まってレイプされた場合の護身術が頭をよぎること暫し。
訪問の目的と日程を連絡しておいても、レンジャーたちは用ができればGPSやカメラ、双眼鏡など、調査すべき機器を担いで4WDやバイクに跨って出掛けて留守です。「日本製のバイクや4WDを装備したと知ったら違法伐採は激減した」と感謝されましたが、多くのパソコンは山奥の宿舎で埃を被っていました。
環境を守る人たち
助手2名とカンボジア環境省で再会した時、運転手付きの車で移動していた私と違って、バスやバイクタクシーで僻地を移動していた彼らは、すっかり痩せこけていました。
数千枚に及ぶ寄贈機材の使用状況を確認する写真を整理して報告書を提出し、化石燃料による発電の割合が増えて批判を浴びる日本に戻りました。
エネルギーの無駄な消費を見かけると、わずかひと月でやせ細ったあの二人の憔悴しきった顔が思い出されたものでした。
図 カンボジアで見かけた二酸化炭素排出量の少なそうな民家
著者プロフィール:
小久保 和代
(こくぼ かずよ)
女子栄養大学中退後、米国ボストン市キャサリン・ギブス校卒、早稲田大学社会科学部卒、法政大学人文科学研究科修士課程修了。
法律特許事務所、国際機関東京事務所勤務を経て開発途上国の政府開発援助に携わる。社会福祉士、キャリアコンサルタント。