この3月から一部の大手電力会社が電気料金を値上げすることをご存知ですか。火力発電の燃料に使う液化天然ガス(LNG)の価格が上がったためだそうです。コロナ禍により在宅勤務で家庭に居る時間が長くなり、家庭での電気使用量が増えたと思います。企業はさまざまな規制や企業努力で電気使用量を減らしていますが、これまで家庭においてはそれほど厳しい規制はありませんでした。
今回の電気料金の値上げは生活にも直結している話なので、電気について考えてみるいい機会だと思いました。
水道は、蛇口から「水」の状態で出てくるので蛇口の先には浄水場がつながっていることは誰もが想像できます。
それでは電気はどうでしょう。電気自体、目に見えないので「水」のようには捉えにくいですが、コンセントのその先は電線→送配電線→変電所→発電所につながっています。発電所には、原子力発電所、火力発電所、水力・太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーによる発電所があります。これら発電所においてそれぞれの方法でそれぞれのエネルギーから電気に変換され、電線を通して電気が届いています。
日本において何のエネルギーから電気が作られているかを表す「電源構成」の推移グラフを以下に示します。再生可能エネルギーを赤色に、化石燃料を使った電源は青色系に、原子力発電は緑色にしました。2011年の東日本大震災が起こった年から原子力発電による発電量は減り、再生可能エネルギーが年々増えています。
コンセントの先の電気はさまざまなエネルギーから作られていることがわかったと思います。
図1 電源構成(発電量)
出所)資源エネルギー庁「総合エネルギー統計(時系列表)」より筆者作成(※1)
また、日本における2019年度のエネルギー自給率は12.1%(IEAベース)(※2)と非常に低いです。世界を見ると、ノルウェー、オーストラリア、カナダのように一次エネルギーの自給率が100%を超える国もあれば、アメリカは約98%、日本のような島国のイギリスは約70%でした(2018年)(※3)。エネルギー源となる石油・石炭・LNGなどの化石燃料資源が国内には乏しく、海外からの輸入に依存しています。
日本の電気の多くは化石燃料から作られ、その化石燃料は輸入に頼っているとなると、エネルギーの自給率を上げる必要があり、そのためには国産のエネルギーである再生可能エネルギーを増やすことが重要です。そして、それは温室効果ガスを排出しない地球に優しいエネルギーなのです。
以前はすべての人が地域の大手電力会社と契約していましたが、電力の小売全面自由化により、2016年4月1日から家庭を含むすべての消費者が電力会社や電気料金メニューを自由に選ぶことができるようになりました。どの電気事業者と契約し、何のプランにするか、乗り換えるとお得、携帯電話とセットにすると割引きがある、ガス会社の「電気」に切り替える、再生可能エネルギーから発電を行っている事業者から電気を購入するなど、様々なサービスから選択することも可能になりました。また、最近、地域電力会社が立ち上がっており、まさに自分の住んでいる地域で作られた電気を購入することもできます。自由化によりさまざまなチョイスができるのです。
電気料金は、できれば1円でも安い電気事業者と契約したいところですが、「安いから」という理由以外で、例えば洋服や靴、食器を選ぶときのように心ときめいて電気を選択したいものです。その理由のひとつに「環境のために」というのがあります。私たちが環境のために家庭でできることは、節電すること、消費電力が少ない家電製品に替えること、そして使っている電気を環境に優しいエネルギーから作られている電気を選ぶことです。
3月から予定されている電気料金値上げで家庭の負担がどのようになるかまだ不明ですが、多少高くても環境に良いものを選んでいきたいものです。
ところで、液体洗剤などの詰め替えを買いに行くと、新しくボトルで買ったほうが容量も多く、安いことがあります。メーカーが新規購入者を増やすためにやっている戦略と思われます。プラスチックごみを増やさないためにも本当は迷わず詰め替えを買うべきなのでしょうが、安い新しいボトルを買おうか一瞬頭をよぎり、ぐっとこらえて容量が少なく割高と知っていても詰め替えのほうに手をのばす、それも私たちの選択なのです。
家に持ち帰ったボディーソープのパッケージの裏には、「100%自然エネルギーで作られている製品です。(グリーン電力証書(注)による)」と表示されていました。環境に配慮した企業の製品を選んでいたことを嬉しく思いました。
注:「グリーン電力証書」とは、自然エネルギーによって発電した電気の環境付加価値を取引できる証書です。企業や自治体などが証書を購入することでその費用を自然エネルギーの発電設備の維持や拡大などに利用されます。「グリーン電力証書」を取得することによりグリーン電力を利用したとみなされ、自然エネルギーの普及を促進し、地球温暖化の防止につながります。
詰め替え容器の表示(筆者撮影)
著者プロフィール:
亀本 裕子
(かめもと ゆうこ)
岩手県立一関第一高等学校 理数科 卒。法政大学 工学部 建築学科 卒。
設計事務所に勤めた後、結婚を機に夫の赴任先であるアメリカに滞在、帰国後、シンクタンクで働いている。
国土基盤、エネルギー、環境の分野は建築とはそう遠からず。
一児の母であり、建築家の妻でもある。