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特集コラム
~サステイナビリティとキャリア~

「スマートグリッド」とは

注目・話題 技術・科学

SDGsに関心をお持ちの方は、「スマートグリッド」について耳にされたことがあるかもしれません。スマートグリッドの「グリッド」は電力の送配電網を意味し、電力の生産者と消費者がITにより送配電網を賢く制御するシステムをスマートグリッドと呼びます。スマートグリッドは、2007年米国のエネルギー独立及び安全保障法で最初に定義されました(※1)。スマートグリッドは、SDGsの17の大目標のうちNo.7(エネルギー)からNo.13(気候変動対策)までをカバーしています。また、個人レベルから現在のエネルギー問題解決に参画できる楽しさ、身近さも含んでいます。本稿ではこの「楽しく身近な」部分を中心に紹介します。

まず、スマートグリッドとは何か、簡単に説明します。図1をご覧ください。これは、電力の流れを示しており、発電所で作られた電力は送電線を通って家庭まで、一部の例外を除き一方通行で届けられます。ここで注意すべきことは、作られる電力と消費される電力とは全体として同じになるよう常に調整しないと電圧や周波数が変動し、停電が生じる恐れがあるということです。このため、今使われている電力量だけでなく、今後の電力需要と供給量を正しく予測して将来に備えることが重要となります。特に、最近は消費電力量だけでなく従来の発電所に太陽光や風力発電などの電力が加わって発電量も時々刻々変化するため、需要と供給のバランスをとるのがきわめて難しくなっています。

図1 電力の流れ(現在+スマートグリッド)

この課題への強力な対応策としてスマートグリッドが提案されました。スマートグリッドは、時々刻々の発電量と消費量の情報を電力事業者が収集、今までより精度良く需要と供給をバランスさせ、電力供給の信頼性を大幅に向上させようという考えです。時々刻々の電力消費量を調べるため、スマートメータが世界的に導入されつつあります。スマートメータは、一定期間の使用電力量を積算するだけの従来の電力計と異なり、時々刻々の使用電力を計算、その情報をITにより電力事業者に送信できます。図1内の印は電力情報のネットワークを示しています。電力事業者はスマートメータにより停電の可能性を減らすと共に電力検針のコストを削減できます。一方、利用者は電力事業者の選択が可能となり、電気料金を節約できる可能性があります。

以上、スマートグリッドはどちらかというと電力事業者にメリットが大きいように見えます。しかし、スマートグリッドには私たち自らがCO2削減に貢献できる部分も含まれています。これは、マイクログリッドと呼ばれる限られた範囲(コミュニティ)での電力ネットワークを考えるとわかりやすくなります。図2をご覧ください。ここでは、図1の変電所から下流部分の一つの町などに限定し、その中で電力の需要と供給の調整を行おうと考えます。コミュニティ内に電力の消費者と太陽電池などの発電設備や蓄電設備が加わることで、先ほどの広範囲の電力網の縮小版、マイクログリッドが構築でき、電気エネルギーの地産地消が期待できます。

図2 マイクログリッド

マイクログリッド内の需給調整は、地域毎に環境が異なることから、先ほどの電力事業者ではなく地域独自のグリッド制御会社が行うことになるでしょう。このグリッド制御会社は、その地域で最適の発電と消費ができるよう調整し、コミュニティ内で電力が不足または余った場合には電力事業者と電力のやりとりを行って、安定した電力供給を行うことになります。ここで注目すべき点は、従来電力事業者がもっぱら担当してきたこれら業務を地域のグリッド制御会社が担当することによって、それぞれの地域で今までにない専門職を含めた新たな雇用が期待できる、ということです。実際、多くの地域で電力の地産地消を目指した新電力会社が発足しています(※2)。

マイクログリッドをさらに進めると、オフグリッドといういわばエネルギーの自給自足に行き着きます。オフグリッドでは、上記マイクログリッドを個々の消費者単位で導入し、発電と消費のバランスを独立して行うことになります。オフグリッドをめざす個人は太陽電池などの発電装置と蓄電池の導入など一定の投資が必要となります。しかし、これらのコストは年々低下しつつあり、特に、今後普及が予想されている電気自動車は蓄電池の役割も果たせることから、この電力の自給自足は近い将来普通になるかもしれません。今まで、購入するのが当たり前であった電気エネルギーを再生可能エネルギーにより自給できる道が見えてきたと言うことです。マイクログリッド、オフグリッドは、これまでの⼤規模発電所からの電力を送電線で広範囲に分配する、いわば電気エネルギーの一極集中から、多様な方法で発電された電力を地産地消するという分散型へと向かうための重要なツールとなると期待できます。

記事掲載日:2021年3月15日

著者プロフィール:
山本 憲夫
(やまもと かずお)

1975年岡山大学大学院工学研究科修了、運輸省電子航法研究所入所。航空用電子機器などを研究。仏ニース大学とミリ波レーダに関する国際共同研究リーダー。東京海洋大学で海上航行の研究と教育担当。元電子航法研究所理事長。現在は大手シンクタンクで鉄道技術の国際展開支援のための調査、研究を担当している。