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特集コラム
~サステナビリティとキャリア~

目指せ!カーボンニュートラルの世界

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カーボンニュートラルの足音

最近、レトルトカレーのテレビコマーシャルで、電子レンジで温めたほうが湯せんに比べCO2の排出量が少ないというのを目にしてびっくりしました。私たちの日常生活の中にも、CO2を意識する時代がやって来ました!

菅総理大臣が2020年10月26日の国会における所信表明演説で、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。」と述べました(※1)。この「2050年カーボンニュートラル宣言」から半年足らずで「カーボンニュートラル」という言葉をよく見聞きするようになりました。

1987年にサステナブル(Sustainable)という言葉が使われ出したときに、日本語では「持続可能な」と紹介され、英語の取っ付きにくさと日本語のわかりそうで説明できない感じが、言葉として定着するのかと思いました。それから30年以上経った今、日常に浸透しています。カーボンニュートラルはというと、カーボン=炭素、ニュートラル=中立・中性な、となんとなく概念がわかる言葉なので、浸透しやすく、より早く広まることを期待します。

温室効果ガスとは

菅総理は「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と述べています。温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)には、主に二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロンガスがあります。日本における温室効果ガスの推移表は以下のグラフのとおりです。2013年度を境に減少していることはわかりますが、果たしてこのままで2050年目標までたどり着ける減少率かというと厳しそうです。

1997年に京都で開催された地球温暖化防止京都会議(COP3)において京都議定書が採択され、温室効果ガス総排出量について、1990年を基準として2008〜2012年の5年間で6%の削減目標を日本は掲げました。2019年度の削減率を算出すると約4.9%(1990年基準)となり、東日本大震災の影響があったとはいえ、1997年から20年以上経った時点で当時の目標すらたどり着いていません。ただし、技術は確実に進歩し、人々の意識も変わったことは明白です。

図1 日本における温室効果ガス排出量推移(1990〜2019年度)

*2019年度は速報値
出所)国立環境研究所温室効果ガスイベントリオフィスのデータをもとに作成(※2)

カーボンニュートラルとは

また、菅総理が述べている「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という意味は、温室効果ガスの排出量と、森林等による吸収量と除去量を差し引きゼロにするということです。下図の右側の青が排出量、緑が吸収量と除去量を表します。左側が2018年の温室効果ガスの排出量を表しているので、温室効果ガスを大幅に削減しなければプラスマイナスゼロにはならないようです。

図2 2050カーボンニュートラルに向けての温室効果ガスの排出量と吸収・除去量の関係

出所)資源エネルギー庁「「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」(※3)

私たちにできること

温室効果ガスのほとんどを占めるCO2の排出量をなんとか全体として削減する必要があります。以下に日本における部門別CO2排出量(エネルギー起源)のグラフを示します。産業部門のCO2排出量の減少が全体としての削減につながっていましたが、ほかの部門は1990年時点とあまり変わらず、むしろ家庭部門と業務他部門では増加していたことがわかります。

図3 日本におけるエネルギー起源の部門別CO2排出量推移(1990〜2019年度)

*2019年度は速報値、CO2排出量は電気・熱配分後の数値、凡例の「業務他」は第三次産業
出所)国立環境研究所温室効果ガスイベントリオフィスのデータをもとに作成(※4)

私たちが活動する上でCO2の排出量をまったくゼロにすることは不可能ですが、エネルギーを低炭素や脱炭素のものに換えていく意識によって減らすことは可能です。私たちの日常生活の中で、できるだけCO2を削減する行動や選択をすることはできます。例えば、意識するだけでできることとしては、冷暖房の温度設定を適正にする、クールビズやウォームビズ、移動を徒歩・自転車・公共交通機関にする、エコドライブを実践する(急発進/急停車しない・アイドリングストップ)、旬の食材を地産地消するなどがあります。また、森林等を増やし、CO2吸収量を増やすこともできます。企業の環境活動の一環で植林などを行うことは、カーボンニュートラルに近づくための活動です。

コロナ禍で自分がうつらないために、また人にうつさないためにみんながマスクを付けるように同じ方向を向くことができれば、カーボンニュートラルも実現に近づくと信じています。

記事掲載日:2021年4月13日

著者プロフィール:
亀本 裕子
(かめもと ゆうこ)

岩手県立一関第一高等学校 理数科 卒。法政大学 工学部 建築学科 卒。
設計事務所に勤めた後、結婚を機に夫の赴任先であるアメリカに滞在、帰国後、シンクタンクで働いている。
国土基盤、エネルギー、環境の分野は建築とはそう遠からず。
一児の母であり、建築家の妻でもある。