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特集コラム

グリーンジョブの専門家に聞こう!

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誰を信用しますか

草履の話ですが、中途半端な買い物をしていました。草履の台と鼻緒を選び、鼻緒と同じ柄のバッグも一緒に購入したのですが、バッグと鼻緒は金色で正装用、草履の台は普段用とちぐはぐな組合せになっていました。着物には格があり、TPOに合わせて小物も選ぶ必要があります。自分に知識が無く、草履屋も呉服屋も何も教えてくれませんでした。商売なので、買ってくれればと思ったのでしょう。

家をリフォームや新築される方から相談されることがあります。本来、設計者が施主に理解していただくよう説明すると思いますが、セカンドオピニオン的な意見を聞いて、安心、納得したいのだと思います。人生の大きな買い物なので、都合の良いことを言わない客観的な説明が欲しいのでしょう。

最初は喜んで好みの壁紙やフローリングを選んでいたと思いますが、意外と選ぶ作業は大変です。また、見える物や使う物は判断もつきますが、断熱材や高性能ガラスなど、見た目ではなく快適さとなるとわからないものです。グレードを上げれば金額も上がり、予算をどう割り振るか、結構なストレスになります。
海外では住宅を新築、改築する際、環境に配慮する必要があり、今後、日本でも悩めるファクターが増えることになります。

建物と住宅に対するヨーロッパの動き

海外の環境施策はその徹底ぶりにいつも驚かされます。
EUでは、EC(European Committee:欧州委員会)が2010年にEU指令「建築物のエネルギー性能指令(EPBD:Energy Performance of Building Directive)」において、nZEB(Nearly Zero-Energy Building)という用語が導入され、EU加盟国にそれぞれの国の目標や戦略を規定するよう委ねられています。

EUを離脱したイギリスでは、2016年からすべての新築住宅を、2019年から住宅以外の新築の建物を「ゼロカーボン(Zero Carbon)」にするという目標をEU指令に先駆けて2008年に設定しています。

イギリスの取組み

イギリス政府は気候変動対策として「Green Industrial Revolution(グリーン産業革命)」を押し進めるために、2020年11月に「10 Point Plan」を打ち出しました(※1)。この計画は、洋上風力発電所の建設や電気自動車の製造、住宅の改修に至るまで10項目に対し、120億ポンドの支援と25万人の雇用創出を図るものです。その一つに住宅と建物に対する対策が挙げられています。

図1のイギリスにおける部門別の最終エネルギー消費割合をみると、2020年の家庭部門は33%あり、2050年のゼロカーボンに向けて住宅への対策は重要なものとなっています。ご想像のとおり、ヨーロッパの家は古い建物が多く、壁・屋根・窓の断熱があまり施されていない状態です。

図1 イギリスの部門別最終エネルギー消費割合

出所)Energy Consumption in the UK (ECUK): Final Energy Consumption Tables(※2)より筆者作成

既存の住宅や建物は、設計当初、現在の気象条件を想定していません。2050年に向けてイギリスではほとんどの建物を今後約30年間で改修する必要があり、新築住宅は将来の住宅基準を見据えて最新の建設方法で建てる必要があります。

住宅では、ソーラーパネルやヒートポンプ、EV充電器と蓄電池、これらを制御するスマートシステムなど、家庭で動作する複数のテクノロジーを連携させなければなりません。それらを機能させるには、設計や施工のみならず、システム設計やその実装、品質などすべての役割においてそのスキルが重要です。イギリス政府はグリーンジョブとして人々をトレーニングし、住宅と公共建築に対する雇用を2030年までに5万人創出して、より環境に優しく、より快適でエネルギー効率が高い建物へ移行する考えです。

日本の最終エネルギー消費

図2において、日本の部門別最終エネルギー消費割合をみると、2020年度の家庭部門の割合は16%となり、イギリスも日本もコロナ前(各グラフの左図)よりコロナ後(各グラフの右図)では増えていますが、最終消費量の合計は減っており、このまま総量を減らし続けたいものです。

図2 日本の部門別最終エネルギー消費割合

出所)資源エネルギー庁「総合エネルギー統計(時系列表)」(※3)より筆者作成

日本ではグリーンジョブという考えはまだ定着していませんが、建物ではZEB(Zero Energy Building:「ゼブ」と言う)、住宅ではZEH(Zero Energy House:「ゼッチ」と言う)を普及させるために、様々な職種において専門性が必要となり、雇用が生み出されることになります。ざっくり言うとこの家庭部門の16%をプラスマイナスゼロにするために、考えなければならないファクターが増えるのです。そして、あらゆる技術を取り入れて実現するために、専門家に頼ることになると思います。2050年の世界は快適な住空間に住んでいることでしょう。

さて、草履は知らずに履いて恥をかくところでした。やはり信頼のおける専門の草履屋さんに鼻緒を適正なものにすげ替えてもらうことにします。

記事掲載日:2022年3月3日

著者プロフィール:
亀本 裕子
(かめもと ゆうこ)

岩手県立一関第一高等学校 理数科 卒。法政大学 工学部 建築学科 卒。
設計事務所に勤めた後、結婚を機に夫の赴任先であるアメリカに滞在、帰国後、シンクタンクで働いている。
国土基盤、エネルギー、環境の分野は建築とはそう遠からず。
一児の母であり、建築家の妻でもある。