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環境ビジネス情報

特集コラム ~サステナビリティとキャリア~

冷静に環境を捉えられる人間を育てる

武蔵野大学
工学部 環境システム学科 講師
磯部 孝行 様

インタビュー キャリア 技術・科学

何故大学教員という道を選ばれたのですか?

自分の考えをとことん追求できるとか、自由なところに魅力を感じたからです。ただそれが自己満足じゃダメなので、ちゃんと学生や企業、社会のために研究活動などをしていく、そういうことを一番中立的立場でできるというのが、大学教員の魅力だと思っています。
そして、他にも大学教員のメリットはすごくあると思います。多様な年齢層や職種の方々と一緒にものごとを考え、一緒に未来を見つめるということできるといった点では非常に魅力的な職業だと思っています。

研究対象でもある建築業界でSDGsがどのように取り組まれているのか教えてください。

僕自身は中小の企業に関心があって、SDGsはグローバルな視点で大企業が取り組むものだと最初思ってしまったんですけど、中小の企業に対してもメリットは非常に大きいなと思います。特に、建築業界の中小企業である工務店だと年間10〜20棟の住宅を建てますが、大手企業だと年間数千棟単位以上になってしまうんですよね。そうするとこだわりのある資材、例えば持続可能な森林から調達する木材を選定することなどが、一万棟ベースでは非常に難しいけれども10棟などの小規模であれば可能になるのでとことん拘る。そういうことでSDGsの中でのポテンシャルは、中小の方が高いと思っています。ですので、建築業界の中小企業である工務店がSDGsに取り組む意義と、そのポテンシャルは非常に高いと思っています。そして、SDGsは持続可能な社会を構築するための一つのアイデアツールだと思っていまして、それを活用しているところは非常に元気な会社が多くて、女性活躍なんかもそうですし、働き方改革とかもそうですけど・・・。

調達に関してとことん拘って競争力につなげているような会社について詳しくお聞かせください。

建築業界ではKD材という人工乾燥材が主流なんですけど、とある工務店では天然乾燥に拘っていて、地域の林産業者と連携をして、地元の山から木材を調達して石油を使わずに乾燥させる自社のヤードを持って、その材を使って住宅を建てるということをしています。それは大手メーカーではできないことで、そこは非常に先進的ですね。国内の林業を元気にすることを考えると、国内の林業の供給量には限界があるので、大手メーカーではかなりハードルが高い取組になってしまいますが、年100戸とかの規模ベースだとこだわりを持った天然乾燥などを作り出せるんです。

供給量に限界があるということを考えるとそうですね。中小企業の方が取り組みやすいしメリットが大きいんですね。

グローバルな持続可能は非常に重要な視点ですけど、地域での持続可能性もあるので、そういう意味で地域に果たす役割は中小企業の方が大きい、ちゃんと貢献できるのではないかと。地域で調達できるものは何で、どのくらいうちで使えるかとか、全部使えるかもしれないとかそういうことができるので。工務店とか小さい建築事業者であれば、量は少なくても10棟の10%になるとか大きなウエイトを占めてくるので・・・。

そういうような取り組みを進めていくに当たって一番大きな課題は何ですか?

パートナーシップとかだと思いますね。資本主義が根深く浸透してしまっている現在、安く物を買おうとか思いっきり儲けようとかの思考が強いと思いますが、そうではなくて何のためにその材を買うとか材を買うことでどういう効果があるとかをちょっと考えると一つ変わるのかなと思いますね。否定はできませんが現在は、物の質と金銭だけが判断基準になっているので、品質が良くて安いので買うというバイアスがかかると思うんですけど、地元の材を買うことであの人たちにお金が渡っているということが見えるとか、物を買うことで業界を応援しているとか「顔が見える消費」が重要だなと思います。そこがSDGsで変わりつつあるのかなと思います。

日用品とかだとエシカルな消費はありますが、建築だとイメージが湧きづらいですね。

わからないですね。部品がすごく多いので・・・家電などは部品が多少限定されているので、ちゃんとここから調達するとか限定できるんですけど、建築だと多すぎて。建築もちゃんと顔が見える部材とかになればいいですよね。多分昔はちゃんとあったんですよね。木曽檜とか吉野杉が良いとか。施主も、住宅を買うことで業者さんを応援しているとかそういう視点があるとちょっとでも変わってくるのかなと思いますね。応援する会社でありたいという面白い工務店があるんですが、「応援する消費」というキーワードが重要なのかなと。SDGsが出てきてからそういうのを意識しますね。
リサイクルの時も思いましたけど「応援する消費」については・・・ヨーロッパとかアメリカ行った時に我々はチップを払う習慣がないので違和感を感じると思うんですけど、その習慣がSDGsじゃないかなと。感謝する気持ちですね。ドイツのレストランに行った時に僕はお金を払っていないのでわからなかったんですけど、私の師が「ヨーロッパは料理が全然出てこないけど文句を言うな。海外のレストランはお店の方が偉い、食いにきているんだろ?と言うスタンスだから」と言うのを聞いて、当時は何にも思わなかったのですが。今考えると、非常に合理的だなと、このレストランの食事は美味しいから、月に1回は絶対にご飯食べに行きたい。潰れたら食べられなくなってしまうから、ちゃんとお金を払ってあげないと。そこがSDGsとか持続可能な社会の一つじゃないのかなと思いますね。現在は、ちょっと高いとか、質とお金が結びつき過ぎているので、それをどう打開するかというか。
そういう社会にならないと持続可能にはならないんですけど、それを押し付けるのも良くないと。環境にいいからだけでは、多くの人は認めてくれないんですよね。やはり消費者目線じゃないとダメで環境をどう冷静に見れているかが、環境学を学んだ人のあり方だと思います。
リサイクルもそうなんですが、是が非でもリサイクルをすれば良いというのではなくて、どういうものをリサイクルすべきか知識を持っているのが環境学をきちんと学んだ人で、埋め立てが悪いとかプラスチックを燃やしてはいけないとか。燃やして良いプラスチックも実はあるかもしれないと考え、そこをちゃんと説明できる人が環境学を知っている人間で、やはり環境を護るためにどう経済的にアプローチできるかとかそういう広い視野で考えていかないと、エゴで終わってしまうなと思っています。


磯部 孝行(いそべ たかゆき)
  • 武蔵野大学
  • 工学部 環境システム学科
  • 講師