持続可能な社会を実現するために求められる人材についてお話いただけますか?
冷静に環境を捉えられる人間になって欲しいですね。天然素材がいいとか地産地消がいいとかもあると思うんですけど、実は環境的に見ると地産地消が悪かったり天然素材はアレルギーを起こしたりするものもあったりするので・・・化学物質はすごく嫌悪されていますけど、化学物質で人々の生活はかなり安全な方に行ったのにとか・・・そういうところをちゃんとみられる人間になって欲しいですね。冷静な判断、ゼロでいいという議論をする人間にはならないほうがいい・・多分そこが環境学じゃないかと思いますね。バランスを見ながら結論を出し、本当に危ないものは危ないのでやっちゃダメだよと言える人間でなくてはならないと思っています。
学生を指導する時に心がけていることがありますか?
環境学を嫌いになれとは言わないですが、そういう指導をしているかもしれませんね。環境学を好きになりすぎるなと。嫌いなものの方が冷静に見られるときもありますよね、ちょっと距離を取りなさいと言いますね。じゃないと信じちゃうので。
実のところ、僕は大学院での就職活動の際、民間企業にじゃんじゃん落とされたのですが、その頃は環境学が大好きでリサイクルしなくてはいけないという熱意に燃えていたんですね。総合商社を受け、これから資源の流れを変えましょうという説明をしたんですけど、誰も頷いてくれなかったですね。今、僕の後輩などは「リサイクルやっているの?面白いね」と言ってもらえるみたいですが、当時はそんな感じでした。その時に思ったのは、好きすぎると視野が狭くなって冷静な判断ができず、自分のエゴを押し付けてしまったと。そこでちょっと距離を置くことで、100%を目指すにはどうしたらいいんだろうというリサイクルではなくて80%でも良いのではないかとか、どのくらいのバランスが資源と経済効率が良いのかとか見られる。そういう意味で、就職活動に失敗してよかったと思っています。環境学と距離をちゃんと置いて環境学の知識をもっている人間、「すべきだじゃなくて説明できる人間」を育てたいと思っています。
研究室での取り組みや指導学生の活動について教えてください。
企業との共同開発になっていますが、学生が勝手にやり始めたペットボトルのキャップをプレスして作るシートやアクセサリー作りを支援しています。手作りですがクオリティがどんどんあがっていくんですよ。
大学にいると面白いことがあって、若い人って色々な物の価値を見出すことに長けているんですよね。キャップから汚い色のシートを作ったんですけど、色々な色を混ぜると綺麗な色のものができることがわかり、今度はそれをアクセサリーにしようという学生が現れてきて、廃材の新しい使い方をその感性で発見していくんですよね。廃材を使わないとできないものって多分いっぱいあるんです。廃材を使うことを楽しむ…これが転機になりましたね。
学生は卒論の研究のためではなくて自分の趣味で作っていますね、趣味ってすごいです。
研究のための研究をしていることがあって、新しい分析の方法や新しい知見を得るために再度計算し直すとか、ちょっと複雑な計算をしてみたりとか。その意味はあると思うのですが、本質的な部分は意外と簡単な計算でできたりするので、論文で評価されることにこだわりすぎてしまうと、社会とどんどんかけ離れてしまう部分もあるのかなと思っています。もう少し実社会に結びつくものがあると思うと、趣味って実社会に結びついていてすごいと思います。
本来プラスチックの強度を図るための試験片を作るためのプレス機で、それほどハイテクなものでもありませんが、楽しんで作っています。
武蔵野大学
磯部 孝行(いそべ たかゆき)
- 武蔵野大学
- 工学部 環境システム学科
- 講師