土壌浄化分野でどのような視点で新規事業に取り組んできたのか、今後の求められる人物像などをお話しいただきました。
西村様のご経歴をお話しください。
大学を出て最初に化学会社(ライオン)に就職しまして、洗剤用の酵素の研究を中心に丸9年お世話になりました。10年目に日本総合研究所に移籍し、主に環境ビジネスの立ち上げやインキュベーションなどをテーマにし、最終的に土壌汚染の問題にフォーカスを当てて約10年間従事しました。
エンバイオ・ホールディングスの前身であるエンバイオテック・ラボラトリーズから依頼が来て、2年ほど社外取締役を兼業でお手伝いしておりました。その後、子会社としてアイ・エス・ソリューションという会社を立ち上げ、今当社グループの主力になっている土壌の調査・浄化をメインとした業務を行うようになりました。
それから土壌汚染の状況をリサーチしながら、調査・浄化の部分を拡大させ、専用の設備などを販売するランドコンシェルジュという会社を立ち上げて、エンバイオテックの子会社にしました。土壌汚染対策の仕事は汚染した土地の再活用が根本的なニーズとなるので、エンバイオ・リアルエステートという会社を立ち上げ、「土壌汚染地で困っている土地所有者から汚染した土地を購入し自社で浄化をして売り出す」という業務を始めました。また、土壌汚染調査・浄化を中国で行う会社も立ち上げました。
元々エンバイオテック・ラボラトリーズでやっていた研究開発は、ある時期に藤倉化成に営業譲渡し、同時に前社長も会社を辞められて、別の道を歩みはじめました。
残された我々は、土壌を中心とした環境ビジネスをやろうということで、社名をエンバイオ・ホールディングスに改め、同時に私がグループの社長になって今日に至っています。
土壌の仕事に最初に取り組んだのは1991年で、その頃は土壌の法律もありませんし、ようやく土壌の環境基準が出来た頃でした。ですから、何をやるにしてもルールもないし専門的な人もかなり少ないので、逆にやればやった分だけ自分のところへ情報も集まるし、やった分だけ自分の名前が知れて、海外からも情報が入って来たり、環境省(当時は環境庁)とか経産省(当時は通産省)、厚生労働省(当時は厚生省)などに土壌環境問題の色々なプロジェクトやルールづくりのための委員会などがあって、その委員に任命されたりして、有識者と知り合う機会も多くなりました。
土壌の分野は、海外では日本の20年も前に法律ができています。日本でこれから法律ができるとすると、その次にどういうことが起きるのか、先行しているアメリカ、ドイツ、オランダなどを見ていると、おそらく日本もそういう流れになるのかなとか、ドイツとオランダとアメリカの違いはどこだろうかとか、どういう技術が主流になるのだろうかとか、そういうことを考える機会が多くなりました。
次第に土壌汚染や地下水汚染のルールづくりが進んできて、日本で土壌汚染対策の法律ができたのが2002年、施行されたのが2003年でした。
そういう意味では、日本総研で色々と取り組んできたことが形になってきた頃に、土壌・地下水の分野を新規事業として立ち上げた訳です。
アイ・エス・ソリューションの立ち上げ時の社員数は3人でしたが、その年に5人になって次の年に6人、7人、8人と毎年一人ずつ増やしていって、今では32人です。
最初の頃は新入社員もいなくて、この分野ならこの人が力になってくれるなという人に「給与面ではなかなか満足なものは差し上げれないけど、ビジョンを掲げて新しい分野を一緒に切り拓こう」と声をかけ、何人かお金よりやり甲斐を求める人が集まって来た、そんな流れですね。
そもそも土壌に入る何かきっかけはあったのでしょうか?
きっかけはたまたまです。
当時の日本総研の上司がアメリカ出張中のスケジュールが空いた時に「観光するよりも何かこの辺に面白い会社ない?」と現地のパートナーに話をしたら、シアトルのベルビューにバイオテクノロジーを使って環境を浄化するという面白いベンチャー企業があるよ、と紹介され、その会社のスタッフ何人かと話しているうちに、「これ面白いね、日本でもこれから使えそうだ」と感じたそうです。すぐ日本総研に電話で「こういう会社があって、日本にはないこういう技術だから、日本での展開を検討したい」と説明して、社長の了解をもらって日本国内の総代理店になったのです。そして私には、「面白い会社の資料を送ったから、自分が帰国するまでにプロジェクトの企画を作っておくように」と国際電話で指示されました。
調べてみると、ちょうど環境庁が全国で地下水のモニタリング調査を始めたり、土壌環境基準を作り始めたりした頃でした。環境庁の情報などを見ると日本でも地下水汚染が結構見つかっており、それが手付かずの状態で、土壌・地下水汚染に関するルールづくりが始まろうとしているという状況がだんだんわかってきました。私は当時、地球温暖化は新しい環境問題だから別にしても、廃棄物にしても大気にしても水質にしても、日本の環境規制とか環境技術は、世界一進んでいると思っていました。ところが土壌や地下水については日本には法律もなかったのですね。シンクタンクの仕事は、5年先10年先を見据えた提言とか事業戦略を提案することなので、土壌・地下水汚染はテーマとしていいかもしれないと思いました。また私の専門のバイオテクノロジーの知識も使えるので、面白そうだと思ってやり始めました。
だから、上司からの国際電話が無かったら、土壌の仕事はやっていたかどうか、わからないですね。
西村 実(にしむら みのる)
博士(工学)
- 1981年、大阪大学工学部卒業後、ライオン株式会社入社。
- 1984年、理化学研究所派遣研究員。
- 1990年、日本総合研究所に移籍。
- 2001年7月、環境バイオテクノロジーの事業化を目指すエンバイオテック・ラボラトリーズ(現エンバイオ・ホールディングス)に参画。現在、同社代表取締役。
- 2003年1月、アイ・エス・ソリューションを設立。現在、同社代表取締役。
- 2010年3月、株式会社ビーエフマネジメント(現:株式会社エンバイオ・リアルエステート)取締役(現任)。
- 2012年6月、中国南京市に合弁会社江蘇聖泰実田環境修復有限公司設立。現在、総経理。
- 2016年2月、一般社団法人土地再生推進協会理事(現任)。