当時は、法整備もされていなかったということですが、お仕事としても専門家からの支援がなかったためのご苦労もあったのではないでしょうか。
苦労よりも楽しいことばかりでした。忙しくて大変でしたけど、辛いと思ったことは全然なかったです。
最初は土壌汚染という分野そのものが日本では新しかったので、専門家が少なく、偉い先生方からも頼られるし、国の代表として海外の国際会議に出席させてもらったりもしました。でもこの分野がメジャーになるにつれて、色々な会社がこれはビジネスになると考えて入ってきたのです。この分野が賑やかになって良いことなのですが、実際に動き始めると事業会社の方がシンクタンクや政府よりも動きが早いのですよ。
シンクタンクの仕事は政策提言や技術の調査・評価など机上の検討が中心ですが、事業会社の場合は、いいと思うと特定の技術に投資をして、開発して実際にやってみるので、実務的な知見がどんどんたまるのです。
そうなると自分たちが新しい知見を獲得するよりも、後から参加してきた企業の人たちの方が、実際の現場に技術を投入するので、現場での新たな経験値がたまるわけですし、問題解決に直接役立つわけです。
最初はこの分野では一番だと思っていたのですが、一番を維持するのは難しいし、むしろ埋もれてしまってつまらないと思うようになりました。そのうち自分も事業会社で実務を通して、この分野の問題解決を追求したいと考えるようになった時に、ベンチャー企業を立ち上げた後輩から手伝って欲しいと声がかかって、ここで新規事業としてアイ・エス・ソリューションを立ち上げて土壌汚染の調査・浄化を始めたのです。
具体的なお仕事の事例をご紹介いただけますか
アイ・エス・ソリューションを設立した当初、一年間は仕事がなかったです。土壌汚染対策の法律ができると、多くの建設会社などが参入し、汚染土壌を掘削して処分する仕事が生まれました。だけど我々は「高いお金をかけて汚染土壌を掘削除去することは事業としては儲かるかもしれないけど、それは本来の合理的な方法じゃない、土壌を掘削しなくても微生物を使ったり、薬剤を使ったりして汚染物質を分解することができるのであれば、それが経済的にも環境的にも一番いい」と考えていました。
先行していたアメリカとかヨーロッパを見ても、お金のかかる掘削除去から掘削せずに浄化できる原位置浄化という方法にシフトしていたのです。
我々は日本で先回りして、最初から掘削除去ではなく、原位置浄化をやるというコンセプトでアイ・エス・ソリューションを立ち上げたのです。提案書を作って色々な会社に説明に行くのですが、実績がなかったのでなかなか取りあってもらえませんでした。「提案内容は面白いのだけど、実績ができてから来てください」って言われるのが落ちで一年間受注がなかったのです。一年間走り回っている時に、石油の販売商社で全国にガソリンスタンドを何百と所有している企業に提案することができ、漸く活路が開けました。時代の趨勢としてガソリンスタンドはだんだん数が減っており、立地がロードサイドのいい場所にあるので、跡地をコンビニなどに売却しようという動きが盛んでした。ところが、ちょうど法律ができた後で汚染があると浄化をしないと売れない。四国にあったあるガソリンスタンドを閉鎖して大手コンビニチェーンに売却する方針だったのですが、汚染が見つかって浄化をすると5,000万円以上かかる。一方、我々が提案した原位置浄化の見積もりは1,500万円でした。実績は無かったもののそこの部長さんは駄目元で採用してくれました。あとで聞くと、駄目でもゼロということはないだろう。半分くらい綺麗になればあと半分は仮に掘削除去したとして2,500万円、5,000万円かかるところが最初1,500万円払って残りが半額かかっても合計4,000万円で、まだ1,000万円安いじゃないかと勘定したそうです。そこで初めてやらせてもらったわけですが、アメリカでしっかりと技術研修を受け、日本でも事前に施工実験を行って施工手順等の確認とトレーニングは行っていましたが、実際の汚染現場に適用するのは我々も初めてだったので、自信満々で説明はしていましたが、本当に上手くいくかどうかはやってみなければわかりませんでした。実際にボーリングして土壌を採取して浄化具合を確認すると一目見ただけで大変綺麗になっていました。また浄化前の真っ黒な油まみれの土壌に薬剤をかけると油が分解してみるみる間に綺麗になりました。視察に来られた商社の部長さんがその様子をみて大変感心されましたが、一番感動したのは自分たちでしたね。土壌を分析して浄化されていることを確認し、めでたくコンビニが建ちました。一部分バイオを適用した箇所は分解に時間がかかるので、モニタリングを半年ほど継続して濃度が下がるまで責任を持って管理しました。これが最初の成功例となったのですが、そうしたら、部長さんが「実は他にもまだいっぱい浄化が必要な土地があります」と、次から次へとリピートで仕事がくるようになりました。
石油業界というのはお互いに競争もしていますけど、環境問題などの共通の課題については情報交換をしているのですね。土壌汚染は頭の痛い問題だったので、業界の集まりでたまたまガソリンスタンド跡地が話題になった時に「うちはこういう会社を使って原位置浄化という方法で安く浄化しているよ、既に浄化が終わったところは売却できて何も問題は起きてないので、なんなら紹介しようか」ってことで別の会社を紹介されました。またそこから別の会社を紹介されたりして、どんどん仕事が増えていきました。
商社からの紹介や、大企業での実績は威力を発揮しました。
「どんなところでの実績があるのか」と聞かれた時に、「こういうところがお客さんです」というと、「あそこが採用するなら間違い無いね」と信用されました。
当初はアメリカの会社からライセンスを取得した化学的に汚染物質を瞬時に分解する工法を中心に行っていましたが、その後、バイオを使った工法も採用していきました。
また中小企業の中には、土地を売りたくても調査費用や浄化費用が捻出できない場合もあり、土壌汚染があっても現況のまま購入し、土地の調査から浄化までを自らの責任で行ったのちに再販する不動産会社、エンバイオ・リアルエステートを設立しました。
この会社も設立から暫くはなかなか条件が合わず、適当な物件を買えなかったのですが、2年ほど活動する中で、都内の一等地であるにもかかわらず倒産したクリーニング工場の跡地が土壌汚染で売れなくて困っているという話をいただき、購入して調査から浄化までを一貫して行ったのちに各種届出を行政におこなって、戸建分譲用地として売却しました。
その後、他でも困っているクリーニング工場をクリーニングの業界団体などから紹介されたりして、土壌汚染地の購入実績を積み上げてきました。
西村 実(にしむら みのる)
博士(工学)
- 1981年、大阪大学工学部卒業後、ライオン株式会社入社。
- 1984年、理化学研究所派遣研究員。
- 1990年、日本総合研究所に移籍。
- 2001年7月、環境バイオテクノロジーの事業化を目指すエンバイオテック・ラボラトリーズ(現エンバイオ・ホールディングス)に参画。現在、同社代表取締役。
- 2003年1月、アイ・エス・ソリューションを設立。現在、同社代表取締役。
- 2010年3月、株式会社ビーエフマネジメント(現:株式会社エンバイオ・リアルエステート)取締役(現任)。
- 2012年6月、中国南京市に合弁会社江蘇聖泰実田環境修復有限公司設立。現在、総経理。
- 2016年2月、一般社団法人土地再生推進協会理事(現任)。