どのような経緯で日本測量協会に移られたのですか?
前職は私自身も大変面白かったのですが、ふと考えてみた時に、一つの会社で30数年いろんなことをやらせてはいただきましたけど、見えるところは「企業のために」というところで、業界全体を見ることはなかなかできませんでした。この業界に新弟子時代から育てていただいた恩返しではないですが、もう少し会社という枠を超えて、社会に役に立つようなことをしたいなと思ったのです。
ここで私がやりたいと思った仕事は技術者教育です。大学生の教育は東京農工大学の農学部で都合十数年ほど非常勤講師を経験し、東京大学生産技術研究所の客員教授も2年半経験いたしました。専業の教授ではありませんが、大学生との接点は数多く経験することができました。それ以上に業界の人たち(技術者)をどのように育成していくか、さらにより高いレベルまで向上させるにはどうすべきか、広く測量・地理空間情報技術者の教育研修に携わりたいと思った次第です。
現在の業界の動向を教えていただけますか?
いま「G空間社会」と言われ、その現実の世界や近い将来の利便性の高い私たちの生活像を伝えるイベントである『G空間EXPO』を毎年秋季に産学官連携で開催しています。今年も11月15〜17日に『G空間EXPO2018』が日本科学未来館(東京お台場)で開催されます。地理情報空間技術、衛星技術が一体化して非常に利便性の高い社会になってきている中で、新しい技術がどんどん入ってきています。
宇宙からの人工衛星データを利用した衛星測位(GNSS)はセンチメートル級の計測が可能となり、それを用いた自動運転など大きな話題になっています。
もう少し高度レベルを落とした地上に近いところでは、航空機搭載の航空レーザスキャナによる測量に加えて、最近ではよりパワーの強いグリーンレーザによるスキャナを用いた河や海の底を測深する技術が注目されています。プラットフォームをもう少し下げていくとUAVがあります。UAVにカメラやレーザスキャナを搭載し、最近では機能的に航空機と同じレベルになってきています。
さらに地上まで目を落としていくと、自動車にレーザスキャナやビデオカメラなど複数のセンサを搭載して走行しながら道路およびその周辺の地物を計測していくモバイルマッピングが稼働しています。航空からの測量で市街地の地図を作成していく場合、頻繁に地物や土地利用が変化していく街の姿を地図上に更新していくには、その度に航空からの測量を実施しなければなりませんが、今は刻々と変わる街の変化をモバイルマッピングで繋いでいくことができるようになっています。
このように測量は今大きく変わっています。それだけに基本測量や公共測量といった基盤となる測量・地理空間情報の取得や構築等を担う測量技術者は、自己の専門技術を深めるだけでなく、現在はその専門技術の深化に加えて、GNSS、航空レーザ測量、航空レーザ測深、UAV、モバイルマッピング等々の多種多様な最新技術についても熟知していなければなりません。一昔前であれば自己の専門技術だけを深化させる謂わば「I型の技術者」が求められましたが、今や「I型」に加えて水平方向に広がった関連する測量・地理空間情報技術にも精通した「T型技術者」が求められる時代になっていると思います。
このような背景から日本測量協会が教育研修していくという意味合いは凄くあるし、やっていかなくてはいけないことがたくさんあります。
公益社団法人日本測量協会
瀬戸島 政博(せとじま まさひろ)
- 公益社団法人日本測量協会 専務理事
- 国際航業株式会社にてリモートセンシングを応用した技術開発に従事。東京大学生産技術研究所客員教授などを経て現職。
- 博士(工学、芸術工学)技術士(7技術部門9技術士)、測量士、空間情報総括監理技術者