学生時代の研究を教えてください。
私は大学も大学院も北海道大学で、都合9年間を過ごしました。高校生の頃に、森林が減少しているなどの問題に興味があったので、農学部の森林科学科に入学しました。当時、北海道大学に日本の生態学者の著名な方々が教員として集まってきていて、生態学についてその先生方から授業で教わる機会がありました。それまで自分は植林のような直接役に立つことを考えてきましたが、生態学の基礎的なことも勉強したほうが良いのでは、と思うようになり、生物の間の相互作用や、生物自体がどのように生きているのかといった基礎的な生物学の勉強にシフトしていきました。
大学院では、木が成長するときにどのような原理で形態形成していくのかを研究するようになりました。木という生き物は、原理としては無限に成長できることになっていて、草は成長するとやがて地上部が全部枯れてしまいますが、木は末端を継ぎ足し継ぎ足しで成長していきます。末端には中央の管制を受けないで全く独立した部分もあり、その場所が明るいか暗いか、栄養がどこまで上がってくるか、どのくらい敵に攻撃されるかなど、枝1本1本の利害でどちらの方向へ伸びるか、どのくらいの大きさになるのか変わってきます。そのように半自律性の部分もありながら、一方で末端は本体のボディからある程度栄養をもらわないと生きていけないので、完全に独立してもいません。そういう組み合わせで、枝は半分は自分の都合で大きくなっているのに木が全体として統制が取れたものになるのは、凄く不思議だなと思いました。ある意味、人間の社会が自己組織化していくところと少し似ている部分があって、木がわかると人間社会のありようも少し理解できるんじゃないかと当時思ったので、大学院では「半自律性ユニットの集合体としての樹木の個体形成」ということを研究していました。
現在のお仕事(東京大学)に至るまでの経緯について教えてください。
大学院で学位をとってから京都大学に研修生として行き、そちらで2年ほど似たようなことをやりながら、教授や学生の研究補助を行いました。
その後は兵庫県の博物館の客員研究員になりました。当時は、県の野生動物保護管理が本格的に動き出すときで、植物の研究者が必要でした。野生動物の管理をしている方たちは動物の分野の出身者が多く、植物の研究はあまり詳しくなかったので、動物が増えると植物がどのようにダメージを受けるかといった、動物と植物の関係を研究できる人間が一人必要ということで、しばらくそちらで研究をしました。今もニホンジカの研究をしていますが、その時に初めてニホンジカの勉強を始めたという経緯があります。なので私は野生動物の分野に入ったのは遅いんです。元々植物の研究者だったのですが、動物をやっている人たちと協働させていただくことは凄く面白かったです。
東京大学大学院
鈴木 牧(すずき まき)
- 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学研究系
- 自然環境学専攻 生物圏機能学分野
- 准教授