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環境ビジネス情報

特集コラム ~サステナビリティとキャリア~

若い世代がSDGsに主体的に関わる仕組みを作っていきたい

芝浦工業大学
環境システム学科 教授
中口 毅博 様

インタビュー 国内・国際 制度・法律
芝浦工業大学環境システム学科教授であり、NPO法人環境自治体会議環境政策研究所の所長も努める中口毅博先生にSDGsと地方創生・地方自治体との関わりや求められる人材についてお話しいただきました。

ご経歴と現在の業務についてお話いただけますか?

筑波大学比較文化学類で人文地理学を学んでいました。屋外に出て地域のことを調べていたのですが、必ずしも未来志向ではなく過去のことを調べるのが中心でした。地理をやっていたこともあり、文系ですがパソコンを使うのが好きだったこともあり、社会調査研究所という民間のマーケティングリサーチ会社に入社し、そこでGIS(位置情報システム)を扱う部門に配属されました。地図をパソコンで作るという仕事から、自治体の環境に関する地図を入力した環境情報システムの開発に当たって何に配慮しなければいけないかを画面上で検索するシステムに関わりました。そこから徐々にパソコンを離れ、自治体の環境基本計画の策定にシフトするようになりました。

そこで仕事をするうちに民間企業の限界といいますか、「契約の切れ目が縁の切れ目」というところに少し不満を感じ、東工大に研究生で入り、その後再度、民間企業に戻ったのですが、もう少し地域の環境保全に本格的に関わりたいと想い、会社を辞めて、環境自治体会議のスタッフになりました。その環境自治体会議は、環境政策に関心のある市区町村からなるネットワーク組織です。現在、加盟数が減っていき30くらいの自治体しか加盟しておりませんが、そこで環境政策研究所というNPO法人を設立し、会員の自治体の環境基本計画や環境マネジメントシステム策定の仕事をしていました。その法人格を取った頃に芝浦工大から教員の公募に応募しないかという話があり、本学の教員になりました。今年19年目でこの学科の中では最年長で、勤続年数も一番長いです。

最初は環境政策を行っていたのですが、環境自治体会議は全国の自治体が参加しており、地方都市にも行くのですが研究者として加わっていると上っ面の仕事しかできないという気がして、現場の実態、リアリティを自分は分かっていないなと思いまして、6年前に愛媛県内子町という会員自治体に大学を休職(サバティカル)し住民票も移して1年間居ました。内子町役場の環境政策室で、幼稚園・保育園から小中学校、高校、高齢者の方に至るまでのエコ学習や総合学習といった野外活動をするようになり、大学に戻ってからもESDコーディネーターという肩書をいただいて、年間の1/3くらいを内子町にいて活動するということを5年半くらい続けました。様々な事情があって、この5月に内子町が無償で貸してくれていた町営住宅を引き払い、2地域居住の生活を終了しました。

そこで学んだのは、環境だけを護るという視点では地方は救えない、持続可能な地域づくりの幅広い視点が必要であるということです。人口が大都市圏に集中し、グローバル化が進んで、地方は少子高齢化や産業の空洞化、衰退が進んでいる中で地方の農山村をなんとかしないと日本は潰れるなということを強く思いました。ドイツには環境先進都市としても有名で、近年では持続可能な地域づくりに市民主体で幅広く取り組んでいる「フライブルク」という町があり、内子町での活動と共に、ここに、年に2回くらい取材に行っていました。そのうちにSDGsという概念が出てきて、これは持続可能な地域づくりに便利なツールだと思い、最近はSDGsの視点から地域の持続可能性を高めるにはどうしたら良いかという問題意識に基づいて実践活動や研究をしています。

特に、国連が決めたアジェンダ2030の終了年や2040年ごろには我々の世代はもう一線を退いているので、今の10代20代が社会の中核を担っていくということを考えると、今の若い人材が主体的に地域づくりに関われる仕組みをどう作るのか、作っていくのかということに関心が移り、それを今実践しています。

内子町にしてみれば、関東から教授が来るぞ!って驚いたのでは?

まぁ、押しかけたんですけど、一応環境自治体会議での付き合いでその時点より10年くらい前から毎年、内子町の環境マネジメントシステムの職員研修の講師をおこなっていました。さらにサバティカルの5年くらい前からISOではない独自の環境マネジメントシステムを導入していましたが、その監査の取りまとめ役ということで町の職員については大体分かっていました。なので、突然来たぞという違和感は無かったと思います。

それはエコアクションとかではなく独自のシステムだったのですか?

環境自治体会議でLAS-E(ラスイー、Local Authority’s Standard in Environment)という独自の規格を開発していました。ISOより文書化やエビデンスとかは簡易ですが、住民が監査するというのが特徴です。ISOやエコアクションですと、資格を持った監査員が外からきて点検評価するわけですけど、自治体はそれよりも直接利害関係を持った住民に点検評価してもらうのが理想なんです。

住民の方というのはどのような基準で選定されるのですか?

自治体によってまちまちではありますが、共通するのはなにかしらの環境活動をされている方ですね。環境団体の中心スタッフとか婦人会とか町内会とか、そういうところで中心になって環境活動をされている方です。

自治体の職員の方ではなく住民の方で、職員同士で監査するということではないのですね。

職員が職員を点検する内部監査とはちょっと違っています。ただ最盛期で12くらいそのマネジメントシステムを導入していたのですが、監査チームの中になにかしらの形で職員が入っている自治体が多かったです。ただそれはオブザーバーという形だったり、新人が研修を兼ねて入っていたりと様々です。


中口 毅博(なかぐち たかひろ)
  • 静岡県三島市生まれ
  • 筑波大学比較文化学類卒業、博士(学術)
  • 芝浦工業大学環境システム学科教授、
  • (特非)環境自治体会議環境政策研究所所長。

  • 自治体の環境政策を専門とし、地域創生やSDGsに関わる教育・啓発活動を自ら実践する。
  • 主な編著書に『環境自治体白書』(生活社、毎年発行)『環境マネジメントとまちづくり—参加とコミュニティガバナンス』(学芸出版社、2004年)『環境自治体づくりの戦略—環境マネジメントの理論と実践—』(ぎょうせい、2002年)など。